国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです。
【き】気持ちを表すには語彙力よりも使う力だ
6月に、私が監修を担当した『気持ちを表すことばの辞典』(ナツメ社)という本が出ました。早くも2度重版になって、なかなか評判もいいようです。
気持ちや心象風景を表すことば約1000語を意味ごとに分類し、説明と例文をつけました。ふたりのイラストレーターによる絵がとても可愛らしい。お茶でも飲みつつ、ぱらぱら読むうち、いつの間にか語彙力がつきます(と思う)。
「監修」は、単なる名義貸しの場合もありますが、それでは気がすみませんでした。ライターの下原稿を読むと、「自分ならこう書く」というところが多く、原稿が真っ赤になるほど修正を入れ、編集部に送りました。だから、内容に関する責任はすべて私にあります。
ことばで気持ちを表すことは簡単ではありません。日常生活のさまざまな場面で、感じたことを率直に伝えたり、相手の思いをきちんと受け止めたりすることは、案外できないものです。
たとえば、好きな人とテーマパークに行ったとする。「楽しかった」「面白かった」とは言える。でも、それは気持ちの一面にすぎません。その人と一緒に過ごせたこの喜びを、キザにならずに表現するには、どうすればいいか。
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source : 文藝春秋 2021年9月号