津村記久子「つまらない住宅地のすべての家」

文春BOOK倶楽部

角田 光代 作家
エンタメ 読書

逃亡犯が住宅地にもたらす「爆発」

 ページを開くと、小説の舞台である「つまらない住宅地」の地図と、住人の名字、何人暮らしかが書いてある。「笠原家……75歳の妻と80歳の夫の2人暮らし」といった具合に。

 小説は、この一角に住む人たち、それぞれの視点に切り替わりながら進む。冒頭で、この町に逃亡犯が向かっているらしいことがわかる。2つ隣の県の刑務所を脱獄したのは、勤め先から横領をした36歳の女性で、この住宅地近辺の出身らしい。住人たちは、テレビやインターネットや学校や職場で事件を知り、それぞれにざわつく。やがて自治会長になったばかりの丸川さんが、この一角で協力し合って寝ずの見張りをすることを提案する。

 そんななかで浮かび上がってくるのは、コの字に並ぶ10軒の家が抱え持つ事情であり、問題である。

 自治会長の丸川さんは、妻に出ていかれて中学生の息子と暮らしている。矢島家の幼い姉妹の母は帰らない日があり、食事にこと欠く姉はなんとか料理を覚えたいと思っている。三橋家の父と母は、12歳の息子の問題に悩むあまり、とんでもない計画を立てはじめている。

 逃亡犯によって、言葉を交わし、ともに食事をするようになる住人たちは、自身の事情を他者に明かすことはない。けれども関わり合うことで、波紋が生まれ、広がり、それぞれの事情が動きはじめる。

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source : 文藝春秋 2021年9月号

genre : エンタメ 読書