分裂したロゴスの中に読み解く近代の病理
「はじめにロゴスありき」。『新約聖書』の「ヨハネによる福音書」の冒頭である。古典ギリシア語のロゴスをドイツ語で何と訳すか。ゲーテの戯曲『ファウスト』でファウスト博士は苦悩する。ロゴスと言えば普通は論理と訳すかもしれない。論理は必ず言葉で表現されるから、論理的な言葉と訳した方が丁寧とも言える。でも、それではもの足らない。だって福音書なのだから。
キリストの言葉、即ち福音は、十分に論理的でもあるが、決して冷たく形式的ではない。愛に満ちている。信仰をもたらす熱と力のある言葉だ。キリストの生身の声が、あたかもフリーズドライ製法のインスタント味噌汁にお湯を注いだときのように、文字から生き生きと蘇ってくるのが福音書という書物だろう。
ならば「ヨハネによる福音書」の肝であるロゴスという一語は、論理や論理的言葉とも訳せるけれど、キリストが信者に愛を感じさせる超論理的な力や行為や実践というふうに、まるで正反対に訳せもするだろう。ファウストは試行錯誤する。
著者は『ファウスト』のこのくだりに注目する。古典ギリシア語をうまく訳せない。どうしても分裂してしまう。ここにこそ近代文化の病理の根本を見つけたり!
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2021年9月号