フリードリヒ・キットラー著、大宮勘一郎ほか訳「書き取りシステム1800・1900」

文春BOOK倶楽部

片山 杜秀 慶應義塾大学教授
エンタメ 読書

分裂したロゴスの中に読み解く近代の病理

「はじめにロゴスありき」。『新約聖書』の「ヨハネによる福音書」の冒頭である。古典ギリシア語のロゴスをドイツ語で何と訳すか。ゲーテの戯曲『ファウスト』でファウスト博士は苦悩する。ロゴスと言えば普通は論理と訳すかもしれない。論理は必ず言葉で表現されるから、論理的な言葉と訳した方が丁寧とも言える。でも、それではもの足らない。だって福音書なのだから。

 キリストの言葉、即ち福音は、十分に論理的でもあるが、決して冷たく形式的ではない。愛に満ちている。信仰をもたらす熱と力のある言葉だ。キリストの生身の声が、あたかもフリーズドライ製法のインスタント味噌汁にお湯を注いだときのように、文字から生き生きと蘇ってくるのが福音書という書物だろう。

 ならば「ヨハネによる福音書」の肝であるロゴスという一語は、論理や論理的言葉とも訳せるけれど、キリストが信者に愛を感じさせる超論理的な力や行為や実践というふうに、まるで正反対に訳せもするだろう。ファウストは試行錯誤する。

 著者は『ファウスト』のこのくだりに注目する。古典ギリシア語をうまく訳せない。どうしても分裂してしまう。ここにこそ近代文化の病理の根本を見つけたり!

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source : 文藝春秋 2021年9月号

genre : エンタメ 読書