8月16日、30万人のアフガニスタン政府軍が抵抗もせずに7万4000人のタリバン軍にカブールを明け渡し、20年に及んだ米国のアフガニスタン戦争は終わった。アーネスト・ヘミングウェーの『日はまた昇る』の中のセリフではないが、「徐々に、そして突然」結末はやってきた。
タリバンは政府軍のパイロットと家族の暗殺を容赦なく行って来た。米軍は7月2日、カブール北方の米バグラム空軍基地から撤退した。政府軍は制空権が最後の砦だった。それをなくした政府軍は一気に戦意を失った。米国人と通訳を含むアフガニスタン人の米国協力者の出国が難航し、彼らをタリバン勢力の人質のようにしてしまったのもこの基地を手放したことが大きい。カブール国際空港のフェンスで「タリバンがやってくる! タリバンがやってきた!」と泣き叫びながら助けを求めるアフガニスタンの若い女性の映像を世界は忘れないだろう。
米国の威信は地に墜ちた。アフガニスタンからの撤退そのものによってというより、このような形でしか撤退できない米国の不甲斐なさによってである。ベトナム戦争を終えるのにニクソン政権は最後まで「名誉ある撤退」にこだわった。バイデン政権はもはやそれに無頓着のように見える。「名誉」を忘れた超大国の行方を世界は凝視しているのだ。その点で、バイデン政権はトランプ政権とそれほど変わらないことに米国の同盟国は慄いている。
タリバンは、米国に対する勝利によってイスラム世界における威信を手にすることになるだろう。それはタリバンのイスラム原理主義をさらに硬直的で非寛容にさせるかもしれない。
バイデンはアフガニスタンを失ったが、実際のところ、ブッシュ、オバマ、トランプ、どの政権もアフガニスタンを失ってきたのだ。政治指導者の無能、政権の腐敗、パシュトン民族の排他的独善、四方を敵対する強国に囲まれた内陸国の非情な地政学……ガニ政権下のアフガニスタン軍は、夕方5時までは政府軍として給料をもらい、その後はタリバン軍の副業に勤しむ、と米軍高官OBが自嘲的に語っていたのを思い出す。30万人の政府軍のうち最後まで忠誠を誓ったのは6分の1と言われる。
米国の退場とタリバンの再登場の意味合いは何か。
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source : 文藝春秋 2021年10月号