著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、ちばてつやさん(漫画家)です。
とにかく厳しい人でした。
そして「漫画」が大嫌いで、我が家には童話や世界文学全集など図書館みたいにどっさり揃っていたのにマンガ本は1冊もありませんでした。食べるとベロが染料で真っ赤に染まる、昔の駄菓子に近い感覚で見ていたのだと思います。子供たちは大好きで夢中になって欲しがるけど、身体には良くなさそうだと。
小学校に通い始めた2年生の秋。杉浦茂さんの「魔法のランプ」の豆本を道でたまたま拾って読んだときは、本当に衝撃でした。ページを開くと異国の魅力的な情景の中で登場人物たちが本当に生き生きと躍動していました。気がつけば家に帰るのも忘れ、最後まで一息に読み終わっていました。急いで帰宅し「この本、とっても面白いんだよ!」と母親に見せたのがいけなかった。一瞥するなりバリッ!と破り支度中の夕餉のかまどに焼べられてしまいました。
「マンガはダメーッ!」
あれは本当にがっかりしたなあ。
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source : 文藝春秋 2021年10月号