令和3年正月、テレビをつけたら映画『日日是好日』を放送していた。20歳の時、母の勧めでお茶の稽古に通い始め、挫折や失恋、父の死を経験しながら、お茶を習うことの本当の意味に気づく、私の若き日の実話である。
私はこの映画のスタッフの一人でもあった。大森立嗣監督を始め、助監督、主演の黒木華さん、先生役の樹木希林さんもお茶の経験がなかった。悩んだ末に茶道教室を開き、監督やスタッフに基本の稽古をつけ、撮影現場に立ち会った。これは私にとって「事件」というべき一生ものの経験で、それについて先日、『青嵐の庭にすわる 「日日是好日」物語』という本を上梓したところだ。
それにしても、正月に観た『日日是好日』には、今までと一味違う印象を受けた。映画の終盤、黒木華さんの独白にドキンとしたのだ。
「お茶を始めて24年、世の中は激変した。世界中で誰も想像できないことが起きた」
この映画を撮影した頃、まだコロナは影も形もなかった……。そして、初釜の場面の樹木希林さんのセリフ。
「毎年毎年、同じことの繰り返しなんですけども。でも、私、最近思うんですよ。こうして、同じことができるってことが、ほんと幸せなんだなあって」
当たり前にしていたことができなくなった状況下で観ると、なんだか、映画が未来を予見していたように聞こえた。
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source : 文藝春秋 2022年1月号