「どうしても微妙にお経の声がずれるのです。オンライン会議サービス“Zoom”の不具合かと思いましたが、そうでないと教えられました」と、懇意にしている神奈川県のお寺の老住職が話す。伝統仏教寺院の住職のための実務報道誌として48年前、一人の住職の立場から小衲が創刊した「月刊住職」の最新取材で聞いた話だ。
老住職は新型コロナウイルスが猛威を振るう令和3年の夏、若い檀家にこう依頼された。「父の一周忌が近いけれども、外出自粛でお寺にうかがうことが難しいです。リモートで法事をやってもらえませんか」。
スマホは今やかなり普及している。高齢の住職でも“独り法要”を修してお墓参りを代行し、その様子をスマホで録画して檀家に送信したこともある。お布施はたとう包みのない銀行振込だった。だがZoomアプリを使い、檀家数名と同じ画面を見ながら一周忌を行うのは未経験だった。
コロナ禍によってお寺の参詣者や墓参は減り、何十年に1度の葬儀も家族だけというケースが増え、年回忌をスルーする檀家は多い。当然、寺院の運営にも響く。総務省による令和2年の家計調査では、一般家庭が支出する宗教費は信仰・祭祀費や葬儀・祭具・墓石費などを合わせても1世帯当たり平均2万5109円。このうち何割かが寺院への支出なのだろうが、それでも総消費支出である約280万円の1%に満たない。宗教費の少ないとされるキリスト教でも収入の10%は教会へ寄付するというし、ヒンズーは宗教費を得るために働く人もいるほどだ。片や、日本は年々減少傾向にあり、コロナ下はさらに厳しい。
老住職はZoomでの法事も避けられない要請、と初めて受けることにしたという。
一周忌を迎えた当日、本堂でカメラ・マイク内蔵のパソコンを前に読経。そして終盤、住職の頭で全員が般若心経を唱え始めた。そのとき住職は自分の発音と檀家の声がほんの少しだが、終始ずれ続けたのに気づいた。これは、たとえるなら演奏会で奏者が画面を通して指揮者にあわせて演奏すると、タクトよりも音が遅れるのと同じで、その差は0.3秒らしい。コンピューターの情報処理装置に走る電気信号の速度が、光を超えられないからだ(2020年8月16日「日本経済新聞」の坂井修一氏「光は遅い」より)。
音のずれは、Zoomを使えば誰もが経験することだが、住職には初めて。それがむしろ新鮮だったと話す。お互いに直接対面することはなかったが、檀家とともに読経できたことを実感。また、感謝の声も聞き、「つながる」喜びを共有できたからだ。
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source : 文藝春秋 2022年1月号