「中国の世紀」——100年後に人々は21世紀を振り返ってそう呼ぶことだろう。阿片戦争で無惨に敗れた国はいま、海洋・宇宙大国として蘇った。半植民地の隷属から世界の覇者を目指す「習近平の中国」を隣国から見つめてきたニッポンの眼力は他を圧している。
武田泰淳が『司馬遷―史記の世界』で示した中国文明への洞察の深さは恐ろしいほどだ。「司馬遷は生き恥さらした男である」という有名な書き出しで始まる評伝は、不世出の歴史家の内奥を照射して余すところがない。腐刑を受けた男は、恥ずかしさを拭おうと史記に挑んだのだが、武田は「書くにつれてかえって恥ずかしさは増していた」と喝破する。その行間には一兵士として大陸を転戦した者の慧眼が見え隠れしている。
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source : 文藝春秋 2022年1月号