ファッションデザイナー・森英恵(95)は1977年に東洋人として初めてパリ・オートクチュール組合に加盟し、2004年の引退までパリでオートクチュールコレクションを発表した。孫でモデル・タレントの森泉氏が、その素顔を語る。
森泉さん
物心ついた頃から「ママモリ」と呼んでいます。私は5人きょうだいで喧嘩も多かったのですが、そんな時は同じ屋根の下で暮らすママモリに話を聞いてもらっていました。どちら側にもつかずに喧嘩を収めてしまう、森家みんなのママなんです。
一方で、ママモリが愚痴や悪口を言うのは見たことがありません。日本人女性がパリで仕事をするつらさもあったはずですが、口にしない。「嫌なことを考えるより、きれいなものを見ていたい」というのです。
私がモデルデビューした頃、雑誌に載った私の写真を見て、こう注意してくれたことがあります。
「口を開きすぎよ。歯医者の広告のモデルじゃないのだから、洋服に目が行くように見せないと」
思えばママモリは、世界的デザイナーと讃えられても「私の仕事は裏方だから」と言い続け、自分のショーでもほぼ表に出ませんでした。
主役はデザイナーでもモデルでもなく洋服だ、というのがママモリの哲学なのかなと思います。
森英恵
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source : 文藝春秋 2022年1月号