独立系シンクタンクAPI(アジア・パシフィック・イニシアティブ)がこのほど発表した日本の「経済安全保障上重要かつ敏感な企業100社」に対するアンケート調査結果は、政府が経済安全保障政策を進める上で心しておかなければならない多くのことを教えてくれる。
調査結果は3つの点を明らかにした。
第1に、これらの企業は米中対立を最大の地経学上のリスクととらえているという点である。74%が「米中関係の不透明性」を「最大の課題」ととらえ、60%が米中対立による自社ビジネスへの悪影響が「何らかの形で出ている」と答えている。今回の100社の場合、売り上げに占める米国の比率「1割以上」が64%、中国のそれは49%であり、両国市場への依存は高い。
米中双方とも次々と対外貿易・投資規制を打ち出している。グローバル企業は、米国の対中制裁に従うと、中国の反外国制裁法違反となり、中国から制裁される。その逆もまた真という危うい状況に置かれつつある。13%がすでにそうした「板挟み」の状態にあると回答している。
中国リスクが長期的かつ広範になりつつあることを企業は痛切に認識している。「中国事業を展開する上での懸念事項」を問いただしたところ、「中国政府の方針変更による事業存続リスク」(76%)、「技術情報を含めた情報漏洩」(66%)、「地政学リスク」(64%)、「中国の競合企業の成長」(63%)、「中国政府の外資規制強化」(52%)、「サイバー攻撃」(52%)などが挙げられた。中国側に「技術移転を要求された」ことがある企業は11%、そのうち38%が「要求に従った」。
にもかかわらず、第2に、企業はこうした中国の経済安全保障上のリスクに備えながらも、当面はむしろ、米国の対中政策に伴うリスクの方をより強く懸念しているように見える。「米国事業を展開する上での懸念事項」について質したところ、「サプライチェーンの混乱」(48%)、「米国の中国企業排除の激化」(47%)、「中長期の対中政策の見通しづらさ」(46%)、「地政学リスク」(39%)、「サプライチェーン再編や生産移管等によるコスト増」(28%)などとなった。
とりわけ「米国の規制強化」への警戒感が強い。「米中対立で事業に影響が出ている」と答えた企業のうち、「米国の規制」を挙げたのは60%で、「中国の規制強化」と答えた34%をはるかに上回る。実際8%が、「輸出制裁企業との取引について米国から指摘を受けたことがある」と答えている。
第3に、中国市場への依存を減らしたいと考えつつも、生産拠点の日本回帰や第三国への移転を本格的に検討するところまでは踏み出せない日本企業のジレンマが色濃く映し出された。14%の企業が「補助金による中国以外の国(東南アジア等)における新たなサプライチェーン構築の支援」を求めながらも、中国での売上比率の「中長期目標」を「増やす」と回答したのは33%、「現状維持」17%。「減らす」は一社もなかった。
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source : 文藝春秋 2022年2月号