あの頃の“首都”を剔出する
先日、あるオリンピック関係者と話したときのこと。“次にオリンピックが巡ってくるとしても半世紀も先だから、終わったオリンピックの細部を検証するカネも時間も無駄”と言うのを聞いて唖然とし、現実の細部にこそ見る/知るべきものがあるのに、と唇を噛んだ。
本書は、副題が示す通り「疫病とオリンピックの街」を歩き、耳を澄まし、目を凝らしながら2020~21年の東京を描くルポルタージュだ。初出が週刊誌だと知れば、かつて1963~64年、つまり東京オリンピック前後、開高健が「週刊朝日」に連載してまとめた『ずばり東京』を連想せずにいられない。しかし、決定的な違いがある。まず、57年後の祭典は新型コロナウィルスのパンデミック下にあり、疫病と時代が交わった。ノンフィクションライターの著者は、「取材」という行為によって渦中を歩き続ける。
全31編。独自の嗅覚を働かせた人選によって、隣人たちの現実を描き出す。新宿ゴールデン街で伝説のゲイバーを営んできた老人。下北沢のライブハウスのオーナー。政治家。大学生。ホストクラブの経営者。靴磨きの青年。歌舞伎町で源氏名を名乗り、「鬼滅の刃」をよすがとして生きる女性。国内外に顧客をもつテーラー。医師。薬物依存症を克服する芸能人。パラリンピックに出場するアスリート……ひとりひとりは21-22年を読み解くパズルのピースとしての存在であり、同時に社会の諸相の語り手である。
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source : 文藝春秋 2022年2月号