著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、藤野可織さん(作家)です。
幼稚園生のとき、寒いと言った私に母が自分の首から外したマフラーをかけてくれた。それきりそのマフラーは私のものとなり、私はそれを大学院を出て働き始めてからも愛用した。無地のウール地で、表は深い赤、裏は黒のマフラーだった。しかしそれは奇妙に短かった。中学生くらいになると、どのような結び方をしても私の首はやんわりと締まった。なんでこんなに短いのかなと思いながら、私は使い続けていた。
もちろん30年近くに及ぶ年月を、そのマフラーひとつで過ごしたわけではない。私はほかにもたくさんのマフラーを持っていた。それでも私は毎冬必ず古いあの赤のマフラーを引っ張りだし、息苦しいと思いながら首に巻き、ほかのたくさんのマフラーを次々と処分しながらも、あれだけは絶対に手放さなかった。
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source : 文藝春秋 2022年4月号