赤いマフラー

オヤジとおふくろ

藤野 可織 作家
ニュース ライフスタイル
著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、藤野可織さん(作家)です。

 幼稚園生のとき、寒いと言った私に母が自分の首から外したマフラーをかけてくれた。それきりそのマフラーは私のものとなり、私はそれを大学院を出て働き始めてからも愛用した。無地のウール地で、表は深い赤、裏は黒のマフラーだった。しかしそれは奇妙に短かった。中学生くらいになると、どのような結び方をしても私の首はやんわりと締まった。なんでこんなに短いのかなと思いながら、私は使い続けていた。

 もちろん30年近くに及ぶ年月を、そのマフラーひとつで過ごしたわけではない。私はほかにもたくさんのマフラーを持っていた。それでも私は毎冬必ず古いあの赤のマフラーを引っ張りだし、息苦しいと思いながら首に巻き、ほかのたくさんのマフラーを次々と処分しながらも、あれだけは絶対に手放さなかった。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

12,000円一括払い・1年更新

1,000円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
雑誌プランについて詳しく見る

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2022年4月号

genre : ニュース ライフスタイル