性暴力における被害者と加害者の視点
衝撃的なタイトルだ。
皮を剥がれ、血を流し続ける心の痛みがひりひりと伝わってくる。
本書は、文学の世界で起きた、ショッキングな性暴力を題材にしている。ショッキング、と書きながら矛盾するようだが、こういうことは実際にあちこちであっただろう、とも強く感じた。
動物病院の看護師として働く柴田咲歩は、7年前、カルチャーセンターの小説講座の講師だった月島光一からホテルに呼び出され、望まない性交を強いられた。
月島の講座から2人目の芥川賞の受賞者が出たことで、カリスマ講師として月島を取り上げる記事を偶然、目にしたことで、咲歩は週刊誌への告発を決意する。「子供がほしいのに、子供を産みたくない」と自分が思うことにも、月島とのできごとが影響していると気づく。
小説は多視点で描かれる。咲歩とその夫である俊。月島と、妻で、かつては小説を書いていた夕里。娘の遥。月島の小説講座の教え子で人気作家となった小荒間洋子。小説講座に通う加納笑子らだ。
それぞれの目から見える世界は大きく異なる。自分の身に起きたできごとを、誰にも知られたくないのに誰も知らないことに傷つき咲歩は告発するが、何も知らされていなかった俊はとまどう。加納は、咲歩から月島に特別扱いされる困惑を打ち明けられていたが、受け止めきれない。事件とまったく無関係の大学生三枝真人は、不満を口にした恋人への怒りの感情から、告発者を揶揄するコメントをツイッターに書き込む。
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source : 文藝春秋 2022年6月号