箱根で夏温泉

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初夏の訪れと共に鮮やかな緑が萌え立つ箱根では、温泉の愉しみも多彩にそろう。歌人で小説家、実業家でもある小佐野彈氏いわく「ここは最強の温泉リゾート」。当地を深く知り、温泉ソムリエの資格も持つ小佐野氏に導かれ、涼を招く名湯の宿へ。/文=上保雅美、写真=佐藤 亘
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塔之沢温泉「山の茶屋」の客室「撫子」。露天風呂に川音が響く。宿泊料金は1室2名利用の場合で、1泊2食付き、1名分の料金(税・サ込み)

疲れを癒やし、美肌にも。 箱根だから叶う極上の名湯巡り

 大伯父が国際興業の創始者だったため国内外をよく旅しました。なかでも富士屋ホテルのある箱根はよく知る場所です。子どもの頃から火山が好きで、ダイナミックな箱根火山にも惹かれていました。日本は世界有数の火山大国のため不安定な島国です。だからこそ火山の恵みを享受しようと温泉に目を向けました。存分に楽しむため泉質や湧出形態、そして源泉掛け流しにこだわっています。

 たとえば箱根・塔之沢温泉の「山の茶屋」は泉質に優れた宿です。自家源泉の単純温泉は体に優しく、客室の露天風呂まで源泉掛け流しですから。また僕は温泉を「涼の湯」と「暖の湯」に分けています。炭酸水素系のお湯は肌がさらっとして涼しく感じられ、夏におすすめ。この涼の湯が箱根にあります。それが芦之湯温泉です。凄い旅館が2軒あり、1軒は「松坂屋本店」。泉質が硫黄を含む炭酸水素塩泉で、透明のお湯に硫黄華が浮かぶ希少な温泉です。一方「きのくにや」は良質な炭酸水素塩泉を引き、敷地内に中性の硫黄泉も自然に湧き、1度に2つの温泉を味わえます。芦之湯温泉は箱根の秘湯と言えるかもしれません。

 執筆で箱根に滞在することが多く、その疲れを入湯して癒やします。同時に、まるで全身が生まれ変わったような滑らかな肌も実感します。今回、泉質の豊富な箱根だから叶う、美肌を促す効果的な温泉巡りを考えてみました。たとえば山の茶屋の優しいお湯で肌を馴らした後、箱根で一番、肌にいい成分を含む芦之湯へ。化粧水などに配合されるメタケイ酸の含有量が群を抜いて多く、涼の湯でいてしっとり美肌の効果が高いといわれています。美肌成分を補給したら、最後は塩化物泉を。塩化物イオンの効果でお肌がパックされ、全身を温めながら保湿効果を高めます。宮ノ下温泉の「時の雫」で体感できます。

 松坂屋本店やきのくにやは文人に愛された老舗。山の茶屋はお風呂が多彩で、時の雫はモダンな宿です。様々なスタイルを選べるのも箱根の魅力。希有な温泉リゾートだと思います。

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source : 文藝春秋 2022年6月号

genre : ライフ 歴史 グルメ