日本を動かすエリートたちの街、東京・霞が関。日々、官公庁を取材する記者たちが官僚の人事情報をどこよりも早くお届けする。
★官僚気分が抜けない
岸田文雄内閣の経済政策立案において、木原誠二官房副長官(平成5年、旧大蔵省入省)が、嶋田隆首相秘書官(昭和57年、旧通産省)を抑え、優位に立ったと言われる。
5月の大型連休中に岸田首相はロンドンの金融街シティで講演し、「インベスト・イン・キシダ」(岸田に投資を)と呼びかけたが、この演説は木原氏が中心となって作成。昨年の総裁選以来、「新しい資本主義」を掲げてきた岸田首相は、「一言でいえば資本主義のバージョンアップだ」と位置づけてみせた。
木原氏は英国への思い入れが強い。平成11年に英国大蔵省へ出向したことを「日本人初の出向」と自らのホームページに記すほどで、政治体験の原点となっている。木原氏の政策志向はリベラル、英国流の「第三の道」で、シティでの岸田演説にはこうした趣向が盛り込まれていた。
木原氏は日本でも野村證券が主催した機関投資家向けのテレビ会議に登壇し、株式市場で不評な「新しい資本主義」の説明に努めるなど、八面六臂の活躍をみせる。
一方で影が薄いのが嶋田氏。経産事務次官まで務めた大物OBながら、安倍晋三内閣で辣腕をふるった入省同期の今井尚哉元首相秘書官(昭和57年、旧通産省)のような存在感は感じられない。
秘書官グループでは、財務省で木原氏の先輩にあたる宇波弘貴首相秘書官(平成元年、旧大蔵省)が本職の予算系とコロナ対策を担当。木原氏と上手く住み分けている。
岸田氏から絶大な信頼を得る木原氏。だが、安倍政権で権勢をふるった今井氏を念頭に、「できるなら政務の筆頭秘書官になりたい」と漏らすなど、官僚気分が抜けないとの指摘も少なくない。
果たしていつまで「木原天下」が続くのか。
★泥酔暴行事件の後始末
泥酔し、暴行事件を起こした財務省の小野平八郎総括審議官(平成元年、旧大蔵省)が5月20日、更迭された。エースの不祥事に省内は「虎ノ門で飲んでたらしい。酒を飲むと寝るタイプだったのに、暴力をふるうとは……」と沈痛ムード。通常国会閉幕後、小野氏は官房長に昇格すると見られていただけに、人事に与える影響は大きい。
政治家を前にタフな交渉も辞さない小野氏を高く評価していたのは矢野康治事務次官(昭和60年)だ。消費税引き上げなどの局面では小野氏を頼りにしていた。
同期で次官レースの先頭を走るのは、宇波首相秘書官だ。「財務省は宇波氏を官房長として戻してほしいが、官邸は悩んでいる」(同省幹部)という。
矢野次官の後任は、茶谷栄治主計局長(61年)が昇格し、新川浩嗣官房長(62年)が主計局長に就くのが既定路線だ。宇波氏が首相秘書官にとどまった場合、官房長は江島一彦主税局審議官(平成2年)が有力視される。主計、主税局をバランスよく担当して、大物次官だった岡本薫明氏(昭和58年)に重用された。奥達雄主計局次長(平成2年)も候補の1人に名前が挙がる。
宇波氏が秘書官から戻り、交代要員を財務省が差し出す場合、秘書官の後任には主計局次長の坂本基氏(3年)や阿久澤孝氏(同)が候補になる。主税局の課長時代に頭角を現した坂本氏は「決断力があり、筋を通す硬派の官僚」(局長経験者)と評される。内閣審議官として官邸のコロナ対策室に常駐した経験もあり、宇波氏の役割をカバーできる。阿久澤氏は厚生労働担当の主計官を務め、社会保障や医療に詳しい。誰が選ばれるにせよ、木原官房副長官と並び、首相を最も近くで支える嶋田首相秘書官との相性が鍵になる。
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source : 文藝春秋 2022年7月号