“病気が完全に回復して元気になれば、イギリスに飛んで、あなたに直接会いに行きます。本当に久しぶりなので、積もる話がたくさんあります!”
ついこの4月にもこんな連絡をくれていたのに、あの懐かしい出井伸之さんがまさか亡くなるなんて……。
ちょっとした手術をするとは聞いていたから、病気であることは知っていました。5月の80歳の誕生パーティに大切なゲストの1人として招待したいと連絡を取り合っていたところだったのです。
1月に電話で話したあと、“Covidのせいで本当に長い間、海外に行っていないので、私の英語もさびついてしまいました。私のゆっくりした会話をどうかお許しください”と丁寧に書いて寄越したことも思い出します。
日本では、出井さんは英語の達人と思われているかもしれませんが、けっしてGreat Englishを話す人ではありませんでした。彼がアメリカで名だたる経営者たちから尊敬され慕われていたのは、高い知性があり、中身のある人物だったからです。
今から25年前、出井さんは私の目の前に青天の霹靂のように現れました。
私はもともとビジネス界に縁があるわけではなく、米CBSでジャーナリストを20年間やりニュースやドキュメンタリー番組を作っていた人間です。CEOを5年間やり、ホームコメディやテレビショーにも力を注いだので、エンターテインメントのビジネスのことも多少は理解していました。その経歴に目を付け、ソニー・アメリカのトップになってくれないかと声をかけてきたのが出井さんでした。
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source : 文藝春秋 2022年8月号