少し前の話だが、福岡のPayPayドームに野球観戦に行った。私は広島出身で、地元広島東洋カープを応援しているのだが、交流戦でパ・リーグの福岡ソフトバンクホークスと三連戦があり、三試合ともめちゃめちゃに負けた(7-0、11-1、8-0)。広島の主軸投手が日替わりでバッティング投手のように打ち込まれ、最後はホークスの選手も心なしか申し訳なさげに長打を放っていた。わかっちゃいたけど、そこまでかい。
しかし歴史的にも外との交流が盛んで転居者も多い福岡の土地柄か、他社携帯からの乗り換え戦略に長けたソフトバンク社のノウハウなのか、不慣れな球場のビジター席で、ボロ負けする贔屓チームをなす術もなく眺める私のようなよそ者に対して、球場は信じがたいホスピタリティを発揮してくれた。
まず、ドームの外に大々的に出展された、ビジターチームのグッズショップ。真っ赤なグッズが豊富に並べられたテントの中に、「わー……」と誘蛾灯に吸い込まれる蛾と化す広島ファン。ここですでにアウェーに踏み入った不安は払拭され、ホームにいるような安心感を得てしまう。そして場内のコンコースに入ると、県民の誇るボールパーク・マツダスタジアムを凌ぐ、九州の食に彩られた球場グルメに心奪われ、愛郷心を失いかける。
ゲートをくぐれば、若い球場職員さんはチケットを確認するだけでなく、「こちらにどうぞ」と席まで誘導してくれた。まあ、なんてご親切なお方……。
世界最大級の大きさを誇るホークスビジョンを目の当たりにすると、どでかいテレビのあるお宅にお邪魔した気分だ。日本代表選抜の常連も多いホークスの選手が活躍する場面を編集した映像は、スタイリッシュで田舎臭さゼロ。ここは単なる「地方都市」じゃない。日本のウエストコーストなんだ。
ビールを注ぎにきてくれた売り子さんの襟元にはカープ坊やのマスコットが。
「私、広島出身なんです! 今日こそ勝ってもらわないとですね~」
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source : 文藝春秋 2022年9月号