私は、学生時代に学級委員になったり生徒会に入ったことがない。何となく自分は、体制を変えるために権力者と交渉をしたり、理想を掲げて大勢を啓蒙する柄じゃない、と感じていた。曲がったことを正すより、抜け道を探す方につい向いてしまう。スカート丈について学校側と交渉するのではなく、放課後にワンタッチで短くできる制服改造に没頭し、絶対に先生と出くわさない路地のお好み焼き屋を見つけてたむろしていた。
自らは全くスカート丈などいじらない生徒会長は、私たちを咎めもせず、一方で厳しい校則の改正を学校に求めたが、「校訓に納得した上で入ってきたわけでしょう。受け入れられないならやめてもらって結構」とベテラン教諭は言った。
ムカつく教師だぜ、と思ったが、私立校だったし、一理あるとも思った。上等だ、いざとなったらやめてやる、とすぐに尻をまくろうとする私と、「そうは仰いますが」と相手をつかまえ、今いる足場を居心地の良い場所に変えようと食い下がる生徒会長とでは、望む自由は同じでも、何かが本質的に異なる気がしていた。
映画を作る仕事についてからも、私の気質は変化しなかった。予算が少ないなら少ないなりにやる。寝る時間もないスケジュールを組まれればその中で撮り切り、場所の撮影許可が出なければ脚本を書き変える。ミニシアターが廃れ、封切り直後の動員数でしか映画を評価してくれないシネコン時代に移り変われば、それに対応した宣伝もする。数限りない妥協もしてきたが、それを「突破力」と捉え、密かに自負する空気もある。けれどそんな貧乏自慢は海外の映画祭などに行くと「なぜ作り手のくせにそんなことを許すのか?」と不思議がられる。世界と比べれば自分たちは貧しく、遅れていると痛感しながらも、自分がやれることは、ある材料を工夫して、最大限のものを作るだけのことだと思っていた。
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source : 文藝春秋 2022年8月号