映画も本も歯に衣着せない評
「孤独な愉しみ」として映画を見続けた、日々の記録である。
1992年から96年までの5年間に、著者は年間5、60本の映画を見た。毎週1本は見た計算になる。フランス文学者でもある作家の好みは、小品、佳作と言うのがふさわしい映画で、ハリウッドの大作や最近の邦画は出てこない。
偏っているといえば偏っているが、この間、見た映画は、フランス、イタリア、イギリス、スペイン、ロシア、グルジア、タジキスタン、中国、香港、韓国、ベトナム、イラン、アメリカ、ペルー、ブラジルと、非常に多岐にわたっている。
足を向ける映画館は決まっていて、京都なら、パチンコ屋の2階にある「みなみ会館」か、朝日シネマ。大阪ならテアトル梅田、三越劇場、それからなんといっても国名小劇(愛称:くにめー)。みなみ会館が150席、くにめーは40席。小さな映画館(すでに閉館、閉館が決まったものが多い)を守備範囲とする。
ドキュメンタリー映画の「レニ」を見れば、門司の映画館で「民族の祭典」を見ていた少年に戻ることができる。近ごろはやりの「映画を早送りで観る人たち」の対極にある、深みのある映画体験だ。
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source : 文藝春秋 2022年9月号