サイバー技術と現実の“融合”が日本再生のカギだ
5月末に退任する榊原定征(さだゆき)経団連会長の後を受けて、新会長に就任することが決まっている日立製作所会長の中西宏明氏(72)。中西氏は、2010年に日立製作所の社長に就任すると、大幅赤字だった同社の再建に奔走し、経営を立て直したことでも知られる。
2014年に経団連副会長に就任後、政府の未来投資会議の民間議員などを歴任してきた。その中西氏が、就任を前に経団連会長としての目標や日本経済の行く末を語った。
私自身は、これまで経団連の会長になるなどとは考えたこともありませんでした。2014年に副会長に就任して、自分なりに仕事を続けていたところ、周囲の人から「次は会長ですね」と声をかけられるようになりました。その度に、「言いたいことを言っている自分は会長なんて柄ではない」と思っていたのです。
ところが、昨年、榊原さんが私に「次を頼みます」とおっしゃった。さすがに「これは逃げることができないな」と、考えるようになりました。
「果たして私にその任が務まるのか」と自問自答する中で、榊原さんの下で副会長を務めた3年半のできごとを一つひとつ思い出していました。この3年半は、まさに日本経済の転換期でした。IT化・デジタル化の波は日本をはじめ世界を飲み込みました。いまやデジタルの要素を考えずにビジネスはできません。
「Society 5.0」という言葉をご存知でしょうか。「狩猟社会」「農耕社会」「工業社会」「情報社会」に続く、日本がめざすべき社会を示すコンセプトです。テクノロジーの進歩により、世界はすでに新しい時代に入ろうとしています。人工知能を搭載して使いやすくなった家電や介護ロボットなど、すでに実現している技術もたくさんあります。こうしたコンピューターやインターネット、人工知能などを使ったサイバーな技術と現実を高度に融合させたシステムで、さまざまな課題を解決したり、経済的な発展を遂げる。そのような「5番目の社会」に日本も必然的に進んでいきます。
それにともない、産業構造、社会基盤など人間の生活そのものが大きく変わるからこそ、民間の代表である財界が、その荒波の先頭に立つべきだと考えてきました。
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source : 文藝春秋 2018年06月号