久しぶりに肩がはまった。1年間フル回転したい
透明人間になりたい――。
この、たった1行の悲痛な叫びにどれほどの想いが込められていたのかを考えると、今もなお、切なくなる。今から2年前、松坂大輔が何の脈絡もなく、携帯電話に送ってきたメッセージ。頻繁にやり取りをしていたわけでもないのに、突然、舞い込んだSOSに仰天した。
「そうでしたね(苦笑)。あれ、何だったかな。べつに追い詰められたわけでもなかったと思いますけど、ただ、純粋にそう思って送りたくなったのかな。誰にも気づかれず、外を歩きたいと思ったんでしょうね」
いやいや、あのときの松坂は、間違いなく追い詰められていた。右肩が痛くて投げられないことに、マウンドに立てない自分の不甲斐なさに、チームやファンの期待に応えられていないことに、苦しんでいた。
確かに、針の筵だったろう。
松坂と一緒に福岡の街を歩いたとき、コンビニに入るのさえ憚られるような、重たい空気が彼の周りに漂っていることを実感したことがある。松坂に気づく人は、誰もが腫れ物に触るような反応だった。被害妄想と言われれば、そうだったのかもしれない。しかしネットを含めて、目に見えるところで松坂への罵詈雑言が飛び交っていたことは事実だ。その声のほとんどが、彼の年俸の高さを揶揄していた。
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source : 文藝春秋 2018年05月号