シナリオ作家の早坂暁（はやさかあきら）（本名・富田祥資）は、意表をつくストーリーで驚かせ、人情の奥底を描いて涙させた。

　1971（昭和46）年に始まったNHKテレビの『天下御免』は、象を初めてみた江戸町民が大騒ぎするシーンから始まる。田沼意次が老中だった時代に、自由に生きる平賀源内が大活躍するコメディだった。視聴率は30％に達し、若者たちが熱狂した。

　29年、愛媛県松山市に生まれる。実家は裕福な商家だったが、旧制松山中学（現・松山東高）から海軍兵学校に進む。敗戦直後には、暗闇のなかに点々と青い火が燃える広島の夜景を目にした。「遺体からでた燐が、雨で燃えているのだと聞かされた」。

　松山中学に復学して、旧制松山高校（現・愛媛大学）に入学し、医者を目指した。しかし、理系の勉強は性に合わず、伯父の娘と結婚して医院を継ぐのも嫌だった。上京して親には黙って日本大学芸術学部演劇科に入学する。

　学生時代には左傾化して「東大ポポロ事件」にかかわり公安に追いかけられた。下町に潜伏し、周囲を気にしながら銭湯にいくと、目の細い男が小声で「あんちゃん、追われているのかい」と話しかけてきた。ストリップ小屋時代の渥美清だった。

　大学卒業後、業界紙や宗教書出版などにたずさわる。32歳の頃から脚本を書くようになり、60年に開始されたNHKテレビの子供向けバラエティ番組『不思議なパック』を手掛ける。61年からの『七人の刑事』では、7人の台本作家のひとりで、仲間に向田邦子がいた。

　71年に始まった『天下御免』には、山口崇や中野良子が出演し、いまも印象に残るドラマとして評価が高い。81年に放送開始のNHKテレビ『夢千代日記』は、胎内被爆したため死の恐怖を抱えながら、気丈に生きる温泉芸者を描いて好評だった。

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