加計問題、失言大臣、健康不安説……難題の先に迫る「落城」の恐怖
6月24日午後、首相・安倍晋三は神戸で朗らかにこう語っていた。
「総理大臣はそれなりに忙しい仕事で、全国に13もある『正論』懇話会から全て出席を頼まれても、わかりましたというわけにはいきません。しかし産経新聞は『安倍さん、かつて神戸製鋼で働いていましたね。思い出の地で懇話会が立ち上がりますよ』と。産経新聞のつけいるすきのない正論に説得され、今日、私は懐かしい神戸の地を再び踏むことができました」
産経新聞が運営をサポートする「『正論』懇話会」が新たに神戸に設立された記念特別講演会。安倍の冗談交じりのリップサービスに、関西の政財界人ら約600人の聴衆は沸いた。だが、それだけでは終わらなかった。講演後段で「来るべき(秋の)臨時国会が終わる前に、衆参の憲法審査会に自民党の(改憲)案を提出したい」とぶち上げたのだ。これまで、年内に自民党案をまとめる方針は打ち出していたが、それをさらに前倒しする宣言だった。
そもそも安倍には、5月3日付の読売新聞のインタビューで、突如、九条に自衛隊の明記を加えた新憲法を2020年に施行させたいとの決意を明かした“前科”がある。またもや自らに近いメディアにニュースを提供し、改憲の流れをつくろうとした。シンパと敵性メディアを分断し、露骨なまでに使い分ける安倍らしいやり方だった。
2度の「爆弾発言」に共通するのは、自民党側に事前の根回しをしないこと。発言後は一転、まるで騒ぎを楽しむように「今は、これでいいんだ」と周囲に漏らしている。党内では安倍の真意を忖度するように「来年の通常国会では衆参両院で改憲原案を可決させる」「来年の秋に衆院選と国民投票を同日で行う」などの憶測が飛び交う。もしその通りに進めば、安倍が語った「20年施行」より1年も早く改憲は実現してしまうが、安倍自身はプロセスについては柔軟に考えている。絶対に譲れない「在任中の改憲」を実現するために、各自が勝手に走り回ってくれればいい――そんな思いが「今はこれでいい」には込められている。
今回の発信にはもうひとつ別の狙いもあった。逆風をそらすためのアドバルーンだ。安倍を取り巻く環境は厳しさを増している。国会では「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法を強引に成立させたことで批判を受けた。学校法人「加計学園」の獣医学部新設問題とその対応にも依然批判が続いている。ダブルパンチで、安定政権に黄信号が灯り始めているのだ。
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source : 文藝春秋 2017年08月号