今日(五月二十四日)はトランプが来ているので、ローマの都心部は厳戒態勢下にある。ローマ法王やその他のイタリアの要人たちと会うためだが、このような日は外出しないほうがよい。自宅に帰るだけなのに身分証明書の提示を求められるだけでは済まず、警備関係者が持っているこの近辺の居住者名簿と照らし合わせたうえで始めてOKが出るという有様。出ないにこしたことはない日がしばしばあるのも、ローマの都心に住む欠点の一つだが、なにしろ二日前には、マンチェスターでテロがあった。
というわけで家にいて要人の訪問もテレビで見るだけだが、今日は、イタリア語で言えば「ベッロ・ダ・ヴェデーレ」、日本語にすれば、「見ているだけで美しい」または「ステキ」、となる現象についての想いを述べてみたい。まじめ一方の人からは軽薄と叱られそうだが、実はこの一事は、成功するかしないかを分ける重要な要素でもあるのだ。
肉体面での美女や美男は、さして関係はない。ファッションショーでの男女のモデルと映画の男優女優を比べてみれば、魅力的なのは断じて後者のほうである。モデルはモデルにすぎないが、俳優たちは、生きた人間を演ずる人々なのだから。
ローマ法王との会見の場で「ベッロ・ダ・ヴェデーレ」と私に思わせたのは、トランプの娘のイヴァンカと夫君のカップルだった。
法王と大統領の二人だけの会見が終わった後でトランプが同行者たちを一人ずつ紹介していったのだが、その場でのイヴァンカをテレビの画面で見ながら、この人は情熱的な人だと思った。彼女は法王に、話の内容はわからないが、一生懸命に話しかけていたのだ。このような場でのプロトコールからは、逸脱していたかもしれない。だが、若さ丸出しの素直さが良かった。父親も素直だが、どうやらこの父と娘の素直さは、今のところにしろ、別の方向に向いているようである。
イヴァンカの次に紹介されたのは、彼女の夫のクシュナー。こちらのほうは、礼儀正しさと愛想の良さの絶妙な配合に話し方も簡潔で、法王をわずらわせた時間ならば、奥方の五分の一であったろう。だが、その「五分の一1」が妻のプロトコール逸脱にバランスをとるためであったとしたら、頭脳明晰だけの男ではないのかもしれない。
一生懸命に話すものだからオッチョコチョイにもなりかねないということで思い出したのが、つい最近フランスの大統領に当選したマクロンである。三十九歳だそうだが、イタリアでもレンツィが首相になったのは三十九歳のときだった。一国を背負うというのに、若いうちは雑巾がけ、なんて言っている時代ではもはやないのだ。カナダのトルドーをご覧あれ。
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source : 文藝春秋 2017年07月号