「我慢と辛抱」の精神で15年目に摑んだ栄冠
2017年、大相撲初場所。千秋楽、満員札止めの両国国技館で、稀勢の里は地鳴りのような大歓声のなかにいた。
「ずいぶん長くなりましたけど、いろんな人の支えがあってここまで来られたと思っています」
溢れ出る涙を隠さず、真っ赤なタオルで目頭を拭いながら、そう答えた。頬を伝わるその涙には、喜び以上にこれまで背負い続けてきた重圧から解放され、「産みの苦しみ」を耐え切った安堵もあったに違いない。
初場所の稀勢の里は、初日から8連勝。9日目に琴奨菊に敗れたものの、単独トップで迎えた14日目、寄り切って逸ノ城を制す。1敗差で追っていた横綱白鵬は、この日の結びの一番で、初顔の平幕・貴ノ岩に不覚を取る。その瞬間、稀勢の里の初優勝が決まり、横綱昇進を引き寄せた。そして迎えた千秋楽結びの一番、稀勢の里は土俵際まで追い詰められながらもすくい投げで白鵬を下し、堂々と優勝賜杯を胸にした。
中学卒業後すぐに15歳で入門した「叩き上げ力士」が、苦節15年で掴んだ悲願の初優勝。30歳、新入幕から73場所での昇進は、昭和以降で最も遅い記録だ。日本中が待望したと言っても過言ではない、三代目若乃花以来、19年ぶりの日本出身横綱誕生という歴史的な栄誉を、やっとその手中に収めたのである。
性格は“ザ・B型”
稀勢の里――本名・萩原寛(ゆたか)は、元アマチュアボクサーの父と一緒に、相撲を見るのが好きだったという。水泳のほか、小学3年からは地元の少年チームで野球をはじめ、中学時代はエースで4番。3年時には野球強豪校からスカウトの声が掛かるほどの逸材だった。しかし、萩原少年は、自ら未知の相撲界に飛び込む決意を固めていた。この決断について、かつて稀勢の里はこう語った。
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source : 文藝春秋 2017年03月号