キャロライン・ケネディ米駐日大使は、サンタクロースのいでたちで踊る恋ダンスを置き土産に日本を去った。彼女ほど、日本の国民を最後まで魅了した米国の大使はいない。
就任当初は、外交のずぶの素人で日本の専門家でもない彼女が日本という重要な同盟国の大使を務めることができるのか、といった懐疑的な意見が日米双方で聞かれた。
しかし、2013年11月に赴任して以来の3年余り、彼女は誰もできなかった大きな仕事をした。戦後の日米の和解の総仕上げに向けて静かな、そして効果的な外交を行ったのである。
ケネディが来日した頃、安倍首相とオバマ米大統領の関係はギクシャクしていた。安倍が同年12月、靖国神社に参拝したことに対して、ケネディ大使は「失望した」との声明を出さざるを得なかった。
2014年4月のオバマの訪日が転機となった。ケネディはオバマ訪日前に一時帰国し、オバマに会い、「アベとの個人的な友情」を築くことの意義を説いた。中国の海洋攻勢を前に日米同盟強化の重要性が念頭にあったことは言うまでもない。それに先だってケネディは安倍と昼食を共にし、「河野談話の見直し」について「大統領が来るときに、これが問題になっていないようにしていただきたい」と直截に述べた。
慰安婦問題の解決に彼女は舞台裏で力添えをした。翌2015年夏の終戦70年首相談話の際、安倍は最終稿を書き上げる前に彼女を密かに招き、草稿を示し、意見を求めた。ケネディは日韓についてさらに踏み込んだ表現があってもよいのではないかと助言した。談話には「戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいたことも、忘れてはなりません」のくだりが入った。
その年の末、日韓両政府は懸案の慰安婦問題の解決策について合意した。この合意はオバマ政権の安倍評価を高めた。それを踏まえて、2016年のオバマの広島訪問とその年末の安倍のパールハーバー訪問が実現したのである。
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source : 文藝春秋 2017年03月号