外交において最も大切な感覚は、バランス感覚である。そのことを私はシンガポール建国の父であったリー・クアンユーからずいぶんと教えられた。リー・クアンユーには1990年代初頭以来、ほぼ3年に一度の割合でインタビューに応じてもらい、その都度、国際政治を見る目を鍛えられた。中でも彼が説いた二等辺三角形理論はいまこそ、再評価すべきものだ。「日米中の関係は二等辺三角形が一番、安定する。日米関係が米中、日中関係より近い関係にある、そうした二等辺三角形の状態を維持することだ」
アジア太平洋の従来のバランスが急激に揺らぎ始めている。それを鋭敏に映しだしているのが、シンガポールと中国の間の微妙な緊張関係である。
1つは、南シナ海問題をめぐるASEANの対応に関するものだ。
ASEANは、9月にベネズエラで開かれた非同盟諸国会議首脳会談の最終文書に南シナ海問題をめぐる最近の情勢を盛り込むよう求めたが、主催国のベネズエラにそれを阻まれたことに「深い遺憾」を書面で示した。
これに対して人民日報系の環球時報が「主催国が反対したにもかかわらず、シンガポールが会議で南シナ海の仲裁裁定を取り上げた」とシンガポールを名指しで批判した。
もう1つは11月、シンガポールが台湾との共同軍事演習を行った後、演習で使用したシンガポール軍の装甲車9台を積んだ船舶が帰途、香港に停泊した際、香港当局に差押えられた事件である。
再び、環球時報が噛み付いた。
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source : 文藝春秋 2017年02月号