東アジア現代史の真の主役は?
『東アジア現代史』は、アヘン戦争から現在に至る通史である。東アジアとは日本、中国、台湾、韓国、北朝鮮を指す。それだけでもう、うっとうしい歴史が想像される。歴史認識問題がどうしても絡まるからだ。著者は冷静に、公平に、多くの人が納得のいく歴史を描き出す。

「現在の日本の歴史教科書は、中国や韓国のものと比べると、きわめてバランスのとれた内容となっていると思う」
これはここ10年間、教科書検定に審議会委員として関わってきた著者のいつわらざる感想である。それでは「きわめてバランスのとれた」東アジア近現代史も必要なのではないか。著者には、そうした意欲と野心があったのだろう。
「西洋の衝撃」が襲うまで、東アジア諸国は「鎖国」の眠りの中にあった。日本と中国と朝鮮では、「近代」への対応は大きく異なった。各国史ではなく、隣国と比較しながら記述される歴史は新鮮で、憲法制定ひとつをとっても、各国の対応と時間差は歴然とする。
アジアの20世紀は「日本の衝撃」と共に始まり、21世紀は「中国の衝撃」と共に始まった。最盛期清朝のGDPは現在ならアメリカのGDPに匹敵していた。「中華の復興」という合言葉の目指すのはその中国である。こうした大きな枠組みの提示から書き始められていて、歴史をまず鷲づかみにし、その後に細部に入っていく。
日中関係でいえば、もしもあの時、という観点も挟まれる。孫文たち中国同盟会と、犬養毅たちアジア主義者の協力が実現していたら。五・一五事件での犬養首相暗殺がなければ、蒋介石との対話で満洲事変解決はありえたか否か。著者は『蒋介石日記』の解読に携わる、中国近代史の研究者であるせいか、痛恨の思いを歴史記述の中に滑り込ませるのも厭わない。教科書ではないのだから、むしろそうした記述が、本書に精彩を与える。
読後に強く感じるのは、東アジア現代史の真の主役は、ひょっとしてアメリカではなかったかという疑いである。「モンロー主義」と「普遍的価値観の普及」を使い分け、アメリカの「国益」が東アジアを左右した。日本も中国も脇役に甘んじていた?
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source : 文藝春秋 2025年4月号