米大統領選挙の開票が始まった11月9日(日本時間)の午前、私はキャロライン・ケネディ大使の招きで、他の招待客とともに米大使公邸にいた。開票結果の速報を一緒に見守りましょう、米国民主主義の祭典の興奮を米国の友人のみなさんと分かち合いましょう、という趣向である。
午前10時半。ケネディさんが短く歓迎の挨拶をした。
「私にとって大切な米国の旗日は『復員軍人の日』などいくつかあります。けれど、4年に一度の大統領選挙の日だけは格別です」
彼女は中でも1960年と2008年の2つを挙げた。父親のジャック・ケネディが当選した選挙と最初のアフロ・アメリカンであるバラク・オバマが当選した選挙である。そして、今回は、初めての女性大統領が誕生するかどうかの3つ目の歴史的な日を迎えた……。
皮肉なことに、この頃を境に、クリントン優勢の当初のムードが変わってきた。フロリダもオハイオもトランプが先行しつつある。11時半頃には何かおかしいという空気が漂い始めた。
私は昼食の約束があり、その直ぐ後に公邸をお暇(いとま)したが、帰り際、外務省の高官と立ち話した。彼はその時点でもなおクリントン勝利を信じて疑っていなかった。
実は、私も同じだった。
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source : 文藝春秋 2017年01月号