日本を震撼させた平成の凶悪事件。事件後に流れた歳月は犯人・遺族の心境にどのような変化をもたらすのか。ノンフィクションライター、小野一光氏が現場を歩く。今回は「平成16年~17年 福岡3女性連続強盗殺人事件」篇の第2回(全4回。第1回から読む)
運転するレンタカーは西へと向かっていた。目指したのは長崎県の北西部に位置する、とある町である。
そこでは、2004年12月12日の深夜に福岡県飯塚市の公園で殺害された、久保田奈々さん(当時18)の両親が民宿を営んでいる。
長崎県の離島で生まれた奈々さんは、事件に巻き込まれる8カ月前の4月から、飯塚市内にある歯科技工士の専門学校に通うため、一人暮らしをしていた。
その日は友人と会っており、帰り道の途中で、直方市に住む土木作業員(逮捕時。犯行時はトラック運転手)の鈴木泰徳(逮捕時35。19年に死刑執行)によって公園に連れ込まれ、被害に遭った(罪名は強盗強姦・強盗殺人)。鈴木はそれから1カ月余りの間に2人の女性を殺害しており、奈々さんが、彼にとっては初めての殺人である。
小学生時代に始めた剣道で、中学時代に初段を獲得するほど元気な奈々さんだったが、14歳のときに膠原病を患ってしまう。そのため入退院を繰り返しながら高校を卒業。実家を離れて未来への夢を抱いてやって来た土地で、悲劇に見舞われたのだ。
私は彼女の父の寿さん(67)を、15年3月に取材していた。突然の訪問にもかかわらず、義理の母から受け継いだという民宿に招き入れてくれた彼は、事件から10年以上経過してはいるが、「まだ奈々が帰ってくるというか、そういう思いしかない」と口にする。そのうえで、「死んだというのをまだ受け入れきらんていうか……それがずっとあるんですよね」と、気持ちの区切りをつけられない現状を語っていた。
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