「これからは3年、また3年と約束を果たしたい。そして陛下と私は生を全うする。それしかないのです」
この夏、私は初めて娘と共に皇后さまにお会いする機会を賜った。
私は外交官として赴任してから、留学した時期も含めると12年間をフィンランドで過ごした経験がある。その地で生まれ育ち、知的障碍児等のグループホームに年間勤めた後、いまは病院で食育の仕事をしている娘は大学4年生の頃、皇后さまがお好きなフィンランドの児童文学『白樺と星』(ザカリアス・トペリウス作)を手書きで邦訳し、挿絵をつけてお手元に上げていただいたことがあった。
『白樺と星』は、戦争で両親と生き別れになってしまった兄妹が、自分たちの家の庭には夜になると、輝く星の下に大きな白樺の木があったという記憶のみを頼りに、困難を乗り越えて家にたどり着くまでの物語である。
すべてが手作りで、絵本というには申し訳ないような粗末な物だったが、皇后さまは喜んで受け取ってくださり、以降、「トペリウスの香緒里さんはお元気?」と折に触れて娘を気遣ってくださっていた。
外交官時代、欧州の王族の宮殿や住まい、日本の皇室における宮家にお伺いする機会を得たが、天皇皇后両陛下のお住まいである御所はそのどれとも違う。室内は淡い紫色の絨毯、薄い木肌のようなベージュ色の壁紙など、主張しないモノトーンの色合いで統一され、調度品はどれも控えめ。皇后さまにお会いするということに大変な喜びは感じても、かつてフィンランドでも大統領一家の夏の官邸にうかがった経験があることから、相手の方の地位で緊張することのない娘も、御所の静謐さには感動を禁じえないようだった。
自分の人生のページを振り返るように
娘は、フィンランドで、英国のシスターが中心となっているイングリッシュスクールに通い、フィンランド語、英語、そしてなによりも聖書に親しんだ。皇后さまは共通の話題を探してくださったのだろう、福祉や聖書の話をし、そして娘に教え諭すように様々なことを語ってくださった。
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source : 文藝春秋 2015年12月号