サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します。
「電子の箱」の一辺の長さ=1兆分の157メートル
「電子書籍」「電子計算機」などなど、電子という言葉は身近でも気軽に使われる。だがその電子とは、いったいどのようなものなのだろうか。実のところ、物理学者の中にも電子を直接見た者はいない。その大きさや所在さえもはっきりせず、ぼんやりと広がった極小の雲のような存在だというのだから、実に掴みどころのない話だ。
そんな電子を捕まえ、閉じ込める箱が、東京大学などのグループによって作り出された。極小の素粒子を幽閉できる箱だから、そのサイズも一辺わずか1兆分の157メートルでしかない。炭素原子8個が、立方体の形に連結した分子がその本体だ。この立方体の頂点8箇所に、電子を強く引き込む力があるフッ素原子を取り付けると、電子を内部に閉じ込められるようになる。このことは、以前から理論的に予測されていた。
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source : 文藝春秋 2022年10月号