サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します。
アイルランドのジャガイモ飢饉による餓死者数=約100万人
本稿執筆時点では、新型コロナウイルスの変異株オミクロンBA.5が猛威を振るい、非常な勢いで感染が拡大しつつある。春ごろには「このままコロナも落ち着くのでは」と期待もしたが、この厄介なウイルスとの闘いはまだまだ終わりそうにない。
危険な病原体に生存を脅かされているのは、我々人類だけではない。1950年代には当時最も広く栽培されていたグロス・ミシェルという品種のバナナが、真菌(カビの一種)に冒された。この病気は、中南米を中心に広まったためパナマ病と呼ばれ、壊滅的な被害をもたらした。
この時、グロス・ミシェルに代わって広く栽培されるようになった品種がキャベンディッシュで、現在最も普及している。ところが最近、このキャベンディッシュでも真菌感染症が拡大しつつあり、「新パナマ病」と呼ばれるようになった。2019年には、世界最大の産地である中南米にもこの病気が上陸し、コロンビア政府が非常事態宣言を発している。何しろこの真菌には効果的な殺菌剤がなく、土の中で30年も生き続ける。靴底やタイヤについた土から各地に広がってしまうため、封じ込めも不可能に近い。このまま行けば、キャベンディッシュは絶滅しかねないという懸念の声さえ上がっている。
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source : 文藝春秋 2022年9月号