ASKA事件で脚光を浴びた「仁風林」は政官界人脈作りの舞台だった——
瑞瑞しい緑が映える植栽に囲まれた庭先の向こうには、古民家風の建物がある。そこから、かすかに琴の音が漏れていた。週に一度、開かれる宴席。この日のメインイベントが、琴のコンサートだった。
「この曲は桜の命の儚さを表現しています」
童顔をほころばせながら、マイクを握った竹中平蔵が奏者の傍らに寄り添って、丁寧に演奏曲の解説を加えていた。世界的な琴の奏者として知られる西陽子が、撫でるように弦を弾く。2人は2008年1月、スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラム東京ナイトで西が演奏した縁でたまたま知り合ったという。名門和歌山県立桐蔭高校の先輩と後輩という間柄である。おかげで接近するのも早かった。知り合って間もなく、竹中自身が音頭をとり「箏曲家 西陽子を応援する和歌山人の会」の旗を揚げ、応援してきた。
09年2月には、中国の上海日本総領事館の招きで竹中が経済問題について講演し、西がコンサートを開いた。以来、経済講演と琴リサイタルという風変わりなコラボが2人にとっての恒例行事になってきた。
冒頭のコンサートもその一つである。場所は東京・港区元麻布にある「仁風林(にんぷうりん)」。言うまでもない、人材派遣大手「パソナグループ」の迎賓館である。ちなみに09年の上海コンサートはパソナが主催し、代表の南部靖之の長女が西の傍らでフルートを吹いた。
仁風林でのコンサートは、竹中にとって可愛い高校の後輩のお披露目でもあった。日ごろパーティで挨拶を済ませるといなくなる竹中が、普段の司会役である南部に代わり、彼女につきっきりだったという。
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source : 文藝春秋 2014年11月号