「植物油は健康的だが、動物の脂は体に悪い」そう思い込んでいる人が多いのではないだろうか。しかし最新の研究で、一概にそうとは言えないことがわかってきた。変わるあぶらの常識について東海大学名誉教授の大櫛陽一所長(大櫛医学情報研究所)に語ってもらった。
スーパーに行くと、健康にいいイメージを強調した食用油がたくさん売られており、そのほとんどが植物を原料としています。そのため、動物の脂より植物の油のほうが健康的だと思い込んでいないでしょうか。
たとえば「リノール酸」です。ひと昔前、「リノールサラダ油」が健康にいいとされ、盛んにテレビで宣伝された時期がありました。サフラワー油(紅花油)、ひまわり油、大豆油、コーン油、ごま油などに多く含まれるリノール酸には、コレステロールや血圧を下げる作用があります。ところが近年、かならずしも健康にいいとは言えなくなってきました。摂り過ぎると、心臓病、脳卒中、がん、アレルギー疾患などが増えるという研究が増えてきたのです。
リノール酸は人間に欠かせない必須脂肪酸で、ふつうに食事をしていれば十分な量を摂取できます。にもかかわらず、植物油を多用している日本人は、欧米人に比べてリノール酸を摂り過ぎています。こうしたことから日本脂質栄養学会は、リノール酸を減らす栄養指導をするよう提言しています。
これ以上に危険な油もあります。「トランス脂肪酸」です。これは植物油に水素を添加してつくられるマーガリンやショートニングに多く含まれるもので、血管の炎症性を高め、心臓病のリスクを高めることがわかってきました。欧米では含有量の表示や、ホテルやレストランの食事から追放するよう義務づけるなど規制が進んでいます。
ところが日本では、未だにファストフードの揚げ物、スナック菓子、菓子パン、ケーキなどに、マーガリンやショートニングが多用されています。もともとマーガリンは、高価なバターの代用品として作られました。一時期は、動物性のバターより健康的なイメージも持たれましたが、人工的につくられたあぶらで、動物の脂と違い自然に存在するものではないのです。
逆に、動物性の脂が健康に悪いという考えは見直されつつあります。日本では一九六〇年代まで脳出血による死亡率が高かったのですが、一九六五年頃から七五年にかけての高度成長期に動物性脂肪の摂取量が増えるにつれて、脳出血が減っていったというきれいな研究結果があります。
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source : 文藝春秋 2014年06月号