実に28年ぶりとなった幕内優勝決定巴戦。大関貴景勝と元大関高安を下し、逆転初優勝の快挙を成し遂げたのは平幕の阿炎だった。横綱大関ら上位陣の成績が振るわない昨今、一山本が、この1年で存在感を増してきた。中央大学相撲部を経て、地元北海道福島町役場の教育委員会に就職、同町の「横綱千代の山・千代の富士記念館」で、子どもたちに相撲を教えていた“山本先生”だ。入門年齢規定が緩和されたことでプロ入りを決心し、角界に“再就職”した道産子力士である。
2017年1月、23歳で元大関若嶋津の率いる二所ノ関部屋から初土俵。北の大地でのびのびと育った187センチ145キロの体躯で、伸びやかな長い手足で繰り出す突き押しを得意とする。色白の肌に黒々とぱっちり開いた大きな目がなんとも可愛らしい力士でもある。2021年7月の名古屋場所で新入幕を果たしたが、二場所で十両に陥落。それでも十両優勝を果たして幕内に返り咲き、この1年間は幕内の座を守り抜いた。
本名は“山本”で四股名を考える際、「そのままでは画数が良くないとのことで“一”を加えたんですよ」と笑う。名古屋場所で飾られた七夕の短冊には、勝ち越しを祈って“八山本”と茶目っ気たっぷりにしたためてもいた。
何より角界内外で愛されるのは、その天真爛漫な明るさだ。自他ともに認める若隆景の大ファンで、巡業先や花相撲の際には、まるで付け人かのように隣にはいつも一山本の姿がある。若隆景本人も、その一挙手一投足に苦笑いしつつ、顔をほころばせている。10月に行われた“大相撲ファン感謝祭”では、国技館内を練り歩き自らファンサービスをする傍ら、若隆景グッズを大人買い。ファンに紛れて若隆景の写真をこっそり撮る“オタ活”(オタク活動)を満喫したのだった。
「ファン以上に楽しめました(笑)。やっぱり自分が楽しまないと他人を楽しませられませんからね」
そう言って一山本は破顔一笑する。
勝ち越しを賭けた千秋楽。足を痛めて車椅子で花道を下がった。持ち前の明るさで、きっとこの試練を乗り超えるだろう。
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source : 文藝春秋 2023年1月号