泣いて馬謖を斬る──。「雌伏の5年」で培った政局観
憲政史上最長を誇った第二次安倍政権だが、存続の危機に瀕した場面は何度もある。その一つが2017年10月の衆議院総選挙だった。
森友・加計問題が燻り続け、「魔の二回生」議員たちの不祥事が相次ぐ状況で、内閣支持率も一時は30%台に急落していた。
9月25日の会見で、安倍は消費税の使途の見直しや、緊迫する北朝鮮情勢の対応を巡って国民に信を問うと表明。「この解散は『国難突破解散』です」と高らかに宣言し、衆院解散に踏み切った。だが、世間では政権延命のための「大義なき解散」と批判の声も上がっていた。
当時の安倍に立ちはだかった最大の壁は東京都知事・小池百合子だ。夏の都議選では小池率いる「都民ファーストの会」が圧勝。“小池劇場”が日本中を席巻し、安倍が会見したまさにその日、小池は「希望の党」を立ち上げ、国政に打って出たのだった。
「自民過半数割れ」「安倍退陣」「次は小池総理か!」などと謳う当時の報道からは、安倍が窮地に陥っていたように見える。また、安倍本人の携帯にも「大敗するから解散は撤回すべき」「二度目の政権交代になる」と反対するメールが殺到したという。かく言う私も自民党の勝算は決して高くないと見ていた。
安倍が解散表明をした25日の夜、対面で取材する機会を得た。出会うなり安倍の落ち着き払った様子に私は面食らった。堂々とした表情を浮かべている。
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source : 文藝春秋 2023年2月号