日韓激突「靖国と慰安婦」

安倍晋三秘録 第4回

岩田 明子 政治外交ジャーナリスト
ニュース 政治 国際 韓国・北朝鮮

「約束を遵守しないのは看過できない」──。厄介な隣国との知られざる攻防

 第一次政権の退陣からしばらく経った頃のことだ。その日、私は安倍晋三元総理と、共通の知人を交えた会食の席で鍋をつついていた。何かのきっかけで、安倍が自身の歴史観や外交問題を語り始め、韓国との「従軍慰安婦」問題についても率直な考えを明かした。

「譲れない一線は変わらない。ただ、いつまでもこの問題が原因で日韓外交の戦略を描けないでいるのはいかがなものか。もし私が再びリーダーになる日が来たら、その時は自分の責任でこの問題にピリオドを打つ。私が頭を下げることで解決したい。将来の日本人には、これ以上、十字架を背負わせたくないんだ」

 その発言に私は衝撃を受けた。

 慰安婦問題について、安倍は保守政治家ならではの確固たる信念を持っていたはずだった。

 第一次政権時代から安倍は、「慰安婦は性奴隷だった」という世界に遍(あまね)く広まったイメージを払拭しようとしていたし、1993年に、日本軍による強制連行を認め、「心からのお詫びと反省」の意向を表明した河野談話の修正も考えていた。

 そんな当時の安倍をよく知っていただけに、この「頭を下げる」という言葉が意外で、深く心に残った。だが、そこには徹底したリアリストとしての安倍ならではの熟慮と計算があったのだ。

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source : 文藝春秋 2023年1月号

genre : ニュース 政治 国際 韓国・北朝鮮