「約束を遵守しないのは看過できない」──。厄介な隣国との知られざる攻防
第一次政権の退陣からしばらく経った頃のことだ。その日、私は安倍晋三元総理と、共通の知人を交えた会食の席で鍋をつついていた。何かのきっかけで、安倍が自身の歴史観や外交問題を語り始め、韓国との「従軍慰安婦」問題についても率直な考えを明かした。
「譲れない一線は変わらない。ただ、いつまでもこの問題が原因で日韓外交の戦略を描けないでいるのはいかがなものか。もし私が再びリーダーになる日が来たら、その時は自分の責任でこの問題にピリオドを打つ。私が頭を下げることで解決したい。将来の日本人には、これ以上、十字架を背負わせたくないんだ」
その発言に私は衝撃を受けた。
慰安婦問題について、安倍は保守政治家ならではの確固たる信念を持っていたはずだった。
第一次政権時代から安倍は、「慰安婦は性奴隷だった」という世界に遍(あまね)く広まったイメージを払拭しようとしていたし、1993年に、日本軍による強制連行を認め、「心からのお詫びと反省」の意向を表明した河野談話の修正も考えていた。
そんな当時の安倍をよく知っていただけに、この「頭を下げる」という言葉が意外で、深く心に残った。だが、そこには徹底したリアリストとしての安倍ならではの熟慮と計算があったのだ。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2023年1月号