エネルギー危機を救う新型炉

問題は食糧とエネルギーだ

橘川 武郎 国際大学副学長・東京大学名誉教授
ニュース 社会
橘川武郎氏(本人提供)

 昨年8月、岸田文雄政権が年末までに政治決断を下すテーマの一つとして「次世代革新炉の開発・建設」を取り上げたことに対し、一部のメディアは、「原子力政策の転換だ」と大々的に報じた。しかし、筆者は、「政策転換」と判断するのは時期尚早だと考える。誰(どの事業者)が、どこ(どの立地)で、何(どの炉型の革新炉)を建設するのかについて、まったく言及していないからである。結局、昨年末時点で岸田政権は、既設原子炉の運転期間延長については、運転休止期間を計上しないことで、事実上、60年超運転も可能にするという新方針を打ち出したが、肝心の次世代革新炉の建設については、具体策を打ち出すことはなかった。

 とは言え、一連の岸田政権の動きが次世代革新炉への国民的関心を高めたことは事実である。次世代革新炉は、現在使われている軽水炉の最新鋭型(次世代軽水炉)、近い将来実用化される新型炉、実用化はまだ先になる核融合に分かれる。その中で、最近、国際的に注目を集めているのは、新型炉の一種である小型モジュール炉(SMR)である。

 SMRは、従来の原子炉より小型で建設費を抑え、工期を短くできる。送電設備がない地域でも発電できる特徴もある。送電網が整っていない発展途上国を中心に、世界的には最も有望な新型炉と言えるだろう。

 しかし、わが国では、事情が異なる。現状では、原発の新規立地はきわめて困難なので、次世代革新炉の建設は既設原発と同じ敷地内で行われる。そうであるならば、小型のSMRを建設するより、大型の次世代軽水炉を建てた方が、スケールメリットが働き、経済性が高い。こと日本に限っては、SMRは、救世主となるインパクトに欠けるのである。

 代わりに日本の救世主となりうる次世代革新炉は、大型の次世代軽水炉と、SMRとは異なるタイプの新型炉である高温ガス炉であろう。

新型原子炉 @iStock

 日本の原子力発電所は、最新鋭であるとはとても言えない。それでも現存する33基の半分強(17基)を占める沸騰水型原子炉については最新鋭の炉が4基存在する(東京電力・柏崎刈羽6・7号機、中部電力・浜岡5号機、北陸電力・志賀2号機)。しかし、残りの半分弱(16基)の加圧水型原子炉については最新鋭の炉が皆無である。この状況を改善するためには、とくに古くて小さい加圧水型原子炉を新しくて大きい次世代軽水炉に建て替えることが、重要な意味をもつ。

 依存度の大小にかかわらず原子力発電を使うのであれば、危険性の最小化が大前提となる。そのためには、古い炉よりも新しい炉の方が良いことは、論をまたない。

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source : 文藝春秋 2023年2月号

genre : ニュース 社会