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「『心』とは何か、やっぱり僕には分からない」養老孟司さんの脱線で実感した「生放送」の魅力

編集部日記 vol.37

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文藝春秋 電子版」は、昨年12月に1周年を迎えました。

文藝春秋 電子版」では雑誌の記事をウェブで読めるほか、電子版だけにしかないオリジナル記事、そして各分野の識者が登壇するウェブ版のセミナー、通称「ウェビナー」も視聴することができます。

 ウェビナーは基本的に生配信のため、登壇者同士の「生の会話」を聴くことができたり、視聴者の皆様が登壇者にコメントを送ることができるなど、リアルタイムならではの楽しみ方が魅力のひとつ。「文藝春秋」2月号に掲載された解剖学者の養老孟司さんと、臨床心理士の東畑開人さんの対談「心の悩みの現在地」は、12月に行われたウェビナーを誌面化した記事です。

 養老さんと東畑さんは、鎌倉市にある栄光学園の先輩と後輩にあたります。東畑さんが1995年に栄光学園中学に入学する頃には、すでに数々の著作を発表していた養老さんは「スーパーレジェンド」として尊敬を集めていたそうです。

両氏の母校である栄光学園

 そんなお二人は、今回のウェビナーが初顔合わせ。配信開始数十分前にスタジオ内で挨拶を交わし、ピンマイクを付けて開始を待つお二人。硬い表情でスタンバイする東畑さんからは、憧れの存在である養老さんを目の前にした緊張が伝わってきました。冒頭挨拶でお二人を紹介する予定だった私も、つられて緊張しだす始末。どうしよう。

 それでもこれは生配信。どんなに緊張していても、時間になれば放送は始まります。スタジオにピリッとした空気が漂うなか、私の嚙みまくりの冒頭挨拶を皮切りに対談がスタートしました。

 今回のウェビナーのテーマは「心の悩みの現在地」。「心の悩み」とは何なのか。「心」はお二人にとって、どんな存在なのか。「心」の問題が起こしたオウム真理教の事件など過去の出来事も振り返りながら、現代人が抱える「心の悩み」について考えていく……という台本をお渡ししていました。

 ところが、ウェビナーが始まってすぐに、話は予想外の方向に展開します。

 養老 今日の話の腰を折ろうとしているわけではないのですが、「心」とは何か、やっぱり僕には分からない。(中略)相手の気持ちについて、僕はある時から考えないことにしたような気がします。分からなくていいし、分かるわけがないだろうと。

 東畑 そうなんですか(笑)。でも、みんな人の気持ちが分かりたくて困ってますよね。

 養老 人の気持ちなんか分かるわけがないと、決めちゃえば楽になりますよ。

 東畑 心は要らない?

 養老 そうです。
 
 これから「心の悩み」について語り合おうとしていたウェビナーで、養老さんは開始早々「心は要らない」とおっしゃったのです。ウェビナーを終えた今なら、そこにも養老さんなりの理由があることが分かるのですが、まさかの「心不要」発言に、東畑さんも編集部も真っ青に……。

 これはいわゆる放送事故というものになってしまうのでは……。ドキドキしながら見守るしかなかったのですが、そこは臨床心理士として様々な人の話を聞いている東畑さん。すかさず「なぜ養老さんは心が要らないという境地に至ったのか」という話に展開し、台本通りだったら聞き出せなかったであろう、養老さんの実体験を知ることができました。こちらは是非、本記事にてお楽しみください(「文藝春秋 電子版」では、ウェビナーでの対談もアーカイブ視聴できます)。

 衝撃の幕開けとなったウェビナーでしたが、それ以降は養老さん、東畑さんそれぞれの「心」についての考えを、終始和やかな雰囲気で話し合われていました。

 1時間半の生配信は無事終了。ひと仕事終え、すっかり打ち解けたお二人が、喫煙室でタバコを吸いながら仲良く雑談している姿が印象的でした。

 台本通りにならないのも生放送ですが、予想外の面白い話が出てくるのも生放送。そんなウェビナーならではの魅力を感じた対談でした。

(編集部・大岡)

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

genre : ライフ 医療 教育