「担降り」「産んだ記憶ある」「RTA」――。
耳慣れないことばですが、みなさんはいくつご存じでしょうか。
昨年、三省堂から『オタク用語辞典 大限界』なる書籍が発売されました。究極のオタクを意味する「限界オタク」と戦前の大辞書『大言海』をかけた、タイトルからすでに力強い同書には1559語もの「オタク用語」が収録されており、上記のことばも収められています。
この辞書によれば「オタク」とは、〈推しのために自身が持つありとあらゆるものをなげうつことができる者〉。ちなみに、すでに一般的な国語辞典にも載るほどよく使われるようになった「推し」は、〈応援する対象。その対象の夢や目標を達成するために、こちらも努力を惜しまず協力したいと思わせる人物〉と解説されています。
画期的なのは、“現役オタク”によって編まれたこと。名古屋短期大学の小出祥子准教授が指導するゼミで日本語学を学ぶ、自らを「オタク」と称する大学生が自身の得意分野のオタク用語を持ち寄り、小出准教授の下での丹念な編集作業を経て、一冊にまとめあげました。第1章では広く「オタク共通用語」が、第2章以降で「三次元」「日本の男性アイドル」「K-POP」「ポケモン」などの“界隈”に分かれたことばが取り上げられています。
今回、本誌にて、小出祥子さんと、『三省堂国語辞典』編集委員の飯間浩明さんによる「オタク用語」を巡る対談が実現しました。
「辞書作りは命を削るもの」「人それぞれに自分自身のオタク用語を持っている」……など、白熱の対談はぜひ本稿をお読みいただくとして(冒頭のことばの意味が気になる方もぜひ)、対談当日には、実際に編集に携わった学生の方々にもお話を聞くことができました。
学生の一人は、「オタク用語のよさとは?」という“非オタ”の私の無粋な質問に、「一種の専門用語でもあるので、同じ界隈を好きな人やその言葉を知っている人同士で話すととても盛り上がる。会話を楽しくするツールでもあるんです」と答えてくれました。
なるほど、それならば……と振り返ってみると、私の周りにもありました、“オタク用語”!
「この週末は『まとめ』があるから……」
「じゃあ、この取材の『まとめ』は明後日までね」
(まとめ……? 何をまとめるんだ??)
3年半前、本誌編集部に配属された当時、先輩たちの発する聞き慣れないことばに頭を悩ませたことが思い出されます。
「夕飯の出前はカツ丼でお願い。……いや、うどんにしよう。……いや、やっぱり『ママ』で!」
(食後の仕事を考えると、こってりかあっさりか迷いますよね……で、どっち??)
→そのまま、つまりこの場合はカツ丼。本来は、ゲラにいったん赤字を入れたものの、直さず元の表現の「ママ」にするときに使います。
そんなことばたちに揉まれながら、「まとめ」とは「(談話や対談、座談会の)原稿を書く」という意味だとのちに判明。今では私も、険しい顔でPCを睨む先輩に対し、ちょっとにんまりしながら「そのまとめ、いつが締め切りなんですか?」などと小生意気な口を利けるようになっています。
あるコミュニティで使われる共通言語を使うことで自分も一員になったと感じ、一体感が生まれる。特別な力や道具も必要なく、ことばだけで人との距離をぐっと近づけることができるなんて。
今回の対談からは、オタク用語のそんな素敵な側面を学びました(もちろん、知らなかったことばもぐんぐん吸収しました)。
いつでもさっと取り出すことのできる、会話の潤滑油。みなさんの周りには、どのような“オタク用語”がありますか?
(編集部・神山未月)
source : 文藝春秋 電子版オリジナル