福島第一原発の廃炉は、世界のどの国も経験のないプロジェクトで、長期にわたって高度な技術と莫大な費用を必要とする。
前人未到の事業に見合った専門的な体制を取るべきなのに、政府は事故直後から「事故を起こした企業の責任」を強調し、東京電力という一民間企業に任せきりにしてきた。
当時、私も委員を務めた原子力委員会は「政府が責任を持つ体制が望ましく、全体を評価する第三者機関を設置すべき」との見解をまとめたが、実現していない。技術的には一企業の枠を超えるし、経済負担も早晩引き受けきれなくなる。十余年を経て、その考えを強くしている。
政府が手本にしたのは1979年の米スリーマイル島原発事故だが、そもそも福島のインパクトは桁違いだ。スリーマイルで事故が起きた炉は1基で、しかも溶け落ちたのは燃料の半分以下、かつ圧力容器内にとどまった。福島は3基の燃料のほとんどが溶けた上に、1、3号機は圧力容器を通過して様々な材料と混ざった状態で冷え固まっている。内部の状態は、いまだよくわかっていない。
想定外の津波による事故と理解されてはいるものの、未解明の部分も多い。国会事故調査委員会は2012年の報告書で、引き続き事故原因の解明を含め、原子力規制当局や政府の監視を行う常設機関の設置を提言したが、これも実現していない。
原発管理をめぐる東電の信頼も回復していない。最近も、柏崎刈羽原発の中央制御室での杜撰な入退室管理が露見した上に、核セキュリティ用の設備の不備を放置していた。
廃炉工程にも問題がある。普通の原発でさえ廃炉に40年かかることがあるのに、事故炉の処理が40年で済むとは考えにくい。しかも、どのような状態になれば「廃炉完了」となるのかも曖昧だ。地元はきれいな土地にしてもらうスタンスだが、公的には何も決まっていないのだ。
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source : 文藝春秋 2023年2月号