メディア王の“終活”は、なかなかに見応えがある。3月で88歳を迎えたルパート・マードック。父親から小さな新聞社を引き継いだ男は、60年を超える経営者人生で買収に買収を重ね、母国オーストラリアから米欧にまたがるメディア帝国を築き上げたが、一昨年「帝国の分割」を決断した。だが、記者会見で「後退か」と問われると「戦略転換だ」と答え、「次の章の始まりにワクワクしている」と笑った。

　1931年、ジャーナリストで首相のアドバイザーも務めていた新聞社オーナー、キース・マードックの長男として生まれた。英国オックスフォード大学に進んだが、21歳の時に父が急死。オーストラリアに戻って家業を継いだ。相続税の関係で主要な新聞社は売却せざるを得ず、手元に残ったのはアデレードの地方紙「ザ・ニューズ」だけだった。

　だが、そこを振り出しにマードックはのし上がっていく。オーストラリア各地の有力地方紙を次々に買収して経営基盤を安定させると、1969年には大衆紙「ザ・サン」を買収して英国に進出。これを足がかりに世界最古の日刊紙と言われる「ザ・タイムズ」など英国の主要紙を傘下に収め、メディア・コングロマリットのニューズ・コーポレーションを形成する。1980年代には映画会社の21世紀フォックスを買収して米国に進出。テレビネットワーク・フォックスを立ち上げた。

　日本で有名になったのは1996年、ソフトバンク社長の孫正義と組んでテレビ朝日の買収に動いた時だ。私も実物を見たのはこの時が初めてだった。当時、マードックは65歳だったが、88歳の今もその外見はほとんど変わらない。

　3年後、68歳の時に、二男一女を儲けた2人目の妻と離婚して17億ドル（約1870億円）の慰謝料を払い、半月後には40歳年下の中国人女性、ウェンディ・デンと再婚。2人の娘を儲けた。そして84歳の時にはロックスター、ミック・ジャガーの元妻と4度目の結婚をした。人の若さを年齢だけで判断してはいけない例の典型である。

　それ以上に驚くべきは、88歳の今も実質的なグループのトップとして冷静かつ大胆な経営判断を下している点にある。

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