いつもご愛読いただき、誠にありがとうございます。
今回は「文藝春秋 電子版」をローンチして本当によかったとしみじみ思った出来事について書きます。
2月特大号の発売直後、「全盲夫婦が“見る”幸せ」を執筆した秋山千佳記者にメールが届きました。
〈記事をお送りくださり本当にありがとうございます。何度も読ませていただきました。丁寧に私たちの話を聞きこんなにもすてきな文章にまとめていただけたこととても嬉しく思います〉
送り主は全盲夫婦の妻・谷口遥さんです。
秋山記者から私への報告のメールにはこんな注釈がついていました。
〈遥さんの言う“記事”というのは、電子版のテキストのことです。掲載誌もお送りしているのですが、紙の雑誌だと彼らは読むことができないので、電子版があってよかったと今回心から思いました。〉
なぜ電子版だと読めるのか?
秋山記者によると、谷口夫妻はパソコンの音声読み上げ機能を使って、耳で“読む”ことができるのだそうです。紙の雑誌や新聞は読めないけど、この機能を使ってネットの記事は日々読んでいるとのことでした。
秋山記者の記事には、谷口夫妻の強さ、明るさが満ちあふれていて、心打たれます。
例えばこんなくだり。
〈二人は、見えるようになりたいと思ったことはないのだろうか。
その問いには、そろって「ない」と即答だった。
遥さんは「人と違うのは不便だし、見えたら便利だろうなとは思いますけどね」と言う。ただ、不便と不幸は違う、とも。
「不便な豊かさってあるんです。情報量の圧倒的に少ない世界にいるけど、あるものに気づけるし、あるもので楽しめるから」〉
昨年9月、谷口夫妻に赤ちゃんが生まれました。
〈二人はnoteで子育て記をつけ始めた。タイトルは「我が家にとうとう電気がつきました」。出産までの谷口家は、来客がない限り、夜でも照明をつけていなかったのだ。
それが変わったのは、陽ちゃん(赤ちゃんの名前)が目の見える子だったからだ。〉(「全盲夫婦が“見る”幸せ」より)
遥さんから秋山記者へのメールにはこんなことも書かれていました。
〈編集長の方にもお薦めとしてお選びくださったことを心よりお礼申し上げますとお伝えいただけないでしょうか?〉
私は巻末の「編集だより」で、谷口夫妻の記事を紹介していたのです。
ただ、「編集だより」は電子版には掲載されていないため、秋山記者がLINEで打ち直して夫妻にお送りしたとのことでした。
すぐに「編集だより」も電子版に掲載するようにしたのは言うまでもありません。
文藝春秋編集長 新谷学
source : 文藝春秋 電子版オリジナル