ヤクザ映画最後の巨匠 中島貞夫監督インタビュー150分

仁義なきヤクザ映画史 特別編

エンタメ 映画 歴史

弾き出された者たちの物語は終わらない

 1月10日、京都御所に行った。参観のためではない。御所を睥睨(へいげい)するマンションの最上階に、東映ヤクザ映画を撮った最後の大物監督、中島貞夫が住んでいるからだ。

 中島はヤクザ映画のみならず、あらゆるジャンルの映画を50本以上撮った撮影所世代の監督だ。昨年は、『日本暗殺秘録』(1969年)が安倍元首相銃撃事件とともにふたたび脚光を浴び、今年に入ってからは毎日映画コンクールの特別賞を受賞し、彼のドキュメンタリー映画『遊撃/映画監督 中島貞夫』(松原龍弥監督)が現在公開中だ。この連載も残すところあと二回、中島にどうしても話を聞いておきたかったのは、その膨大なフィルモグラフィーの中で燦然と輝くのが、『893(ハチキューサン)愚連隊』(66年)、『現代やくざ 血桜三兄弟』(71年)、『鉄砲玉の美学』(73年)、『脱獄・広島殺人囚』(74年)、『実録外伝 大阪電撃作戦』(76年)、『総長の首』(79年)、『極道の妻(おんな)たち 危険な賭け』(96年)といった多種多様なヤクザ映画だからだ。

 中島は「義理と人情を至上の価値とする任侠映画とは肌が合わない」と公言し、戦後派的アナーキーな感性を持ちながら、「アンチ・任侠映画」としての「チンピラ映画」を撮り続けた。さらに、80年代以降、東映ヤクザ映画がピークを過ぎるなかで、東映のエース監督としてヤクザ映画を最後まで支え続けた。このように東映ヤクザ映画を醒めた目で見ながら、このジャンルと最も激しく格闘し、その終焉を見届けた男——中島貞夫に「ヤクザ映画とは何か」を聞いた。

インタビュー中の中島監督(2023年1月) ©文藝春秋

 ——ヤクザはあるときは権力末端の暴力装置として民衆を弾圧し、あるときは民衆のために闘うという両義的な存在でした。中島監督はヤクザという存在をどのようにお考えですか?

 中島 社会からほっぽり出された奴がヤクザだと思っています。放逐され方には色々あって、自分から暴れたのではなく、暴れるような状況に追いこまれて、怒髪天を衝く場合もあるわけです。僕が映画で描きたかったのは後者でした。助監督時代には、そういうはみ出してゆくヤクザを主人公に「こいつは何で外れてしもうたんや」と問いかけるようにシナリオを何本か書きました。

 ——64年に『くノ一忍法』でデビューしたあとも、山の民をテーマに据えた『山窩』や釜ヶ崎を舞台にした『通天閣の兄やん』の脚本を書きます(「山窩」は85年に『瀬降り物語』として実現)。また、79年の『真田幸村の謀略』では幸村(松方弘樹)に「草の者(被差別民)になる」と宣言させます。山窩、棄民、被差別民、在日朝鮮人など虐げられた者やマイノリティに対するシンパシーはいつごろ芽生え、どのように培われたものなのでしょうか。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

12,000円一括払い・1年更新

1,000円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
雑誌プランについて詳しく見る

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2023年3月号

genre : エンタメ 映画 歴史