ミシェル・クオ著、神田由布子訳「パトリックと本を読む 絶望から立ち上がるための読書会」

文藝春秋BOOK倶楽部

本郷 恵子 東京大学史料編纂所所長
エンタメ 読書

迷い続ける誠実さを綴る

「ハーバードの学位をどぶに捨てる気か?」

「あなたの産んだ子どもじゃないのよ」

「殉教者になるなよ」

 両親や友人にくりかえし諫められても、彼女は生徒を見捨てることができなかった。

 本書の著者ミシェル・クオは台湾系移民の家庭に生まれ、ミシガン州で育った。両親は、教育がアメリカ社会における安全と豊かさをもたらすと信じ、娘が成功したエリートになることを願った。娘は期待に応えてハーバード大学に進学したが、一方でマイノリティとしてのロールモデルを求めて、キング牧師やマルコムXなどの公民権運動の活動家に夢中になった。人の役に立つ仕事をしたいと思いつめ、教育困難地域に教師を派遣するNPOに登録し、ミシシッピ・デルタと呼ばれるアメリカ南部の最貧地域に向かう。

 彼女が着任したのは、普通の学校を追い出された不良たちが送り込まれるオルタナティブ・スクール。公教育の最後の砦となるはずの場所だが、そこにいるのは暴力と無気力、説明のつかない衝動やすべてを拒絶する頑固さに取り憑かれた子どもたちで、彼らが切実に学ぶのは人生をあきらめることだった。

 それでもクオ先生は奮闘した。本を読ませ、詩を書かせ、考えさせた。なかでも15歳のパトリックは、いわば教えがいのある生徒として彼女の興味を引いた。励ましに飢え、努力したがっているように見えたのだ。彼は最も成績の上がった生徒として表彰された。

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source : 文藝春秋 2020年8月号

genre : エンタメ 読書