一木けい「全部ゆるせたらいいのに」

文藝春秋BOOK倶楽部

角田 光代 作家
エンタメ 読書

逃げられないから

 アルコール依存症と、ただの酒好きとの違いはなんだろう。アルコール依存症かどうかを判断するスクリーニングテストというものがあって、その質問事項を読めば、違いはなんとなくわかる。でもたとえば、この小説に出てくる宇太郎はどうだろう。高校時代の部活の先輩、千映と結婚し、恵という1歳半の子どもがいる。仕事も職場も好きになれず、のしかかる責任にこらえきれず酒を飲む。酒量が増える。妻の千映は、お酒に依存していると宇太郎をなじるが、それは、アルコール依存症の父を持つ、その恐怖から言っているのか、それとも、宇太郎の飲酒は本当に度を超しているのか。

 小説は、千映の両親が出会い、恋をし、子を身ごもり、結婚し、家族になっていく様子も描く。千映の父親は英語の原書本を読む、理知的でおだやかな、子煩悩の男だった。結婚して子が生まれたので大学院を辞め、アルバイトを掛け持ちして生活費を稼ぎ、やがて大手企業に就職する。仕事に追われ、怒りと苛々にさいなまれて酒を飲むようになる。泥酔するまで飲んで暴力をふるう。どんどん加速する。千映はそんな父を疎みながらも対話しようとする。説得しようとする。父親が病気だとは思っていないからだ。「厳しくて気難しい、酒好きの人」だと信じていたからだ。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
新規登録は「月あたり450円」から

  • 1カ月プラン

    新規登録は50%オフ

    初月は1,200

    600円 / 月(税込)

    ※2カ月目以降は通常価格1,200円(税込)で自動更新となります。

  • オススメ

    1年プラン

    新規登録は50%オフ

    900円 / 月

    450円 / 月(税込)

    初回特別価格5,400円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります。2年目以降は通常価格10,800円(税込)で自動更新となります。

    特典付き
  • 雑誌セットプラン

    申込み月の発売号から
    12冊を宅配

    1,000円 / 月(税込)

    12,000円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります
    雑誌配送に関する注意事項

    特典付き 雑誌『文藝春秋』の書影

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2020年8月号

genre : エンタメ 読書