シャロン・ストーンの名を聞くと、10人のうち8、9人は『氷の微笑』(1992)を思い出すのではないか。あの映画は当時、呆れるほど話題になった。エロティック・スリラーとか淫夢映画とか、大げさな形容も飛び交ったが、要は「人を食った犯罪映画」だ。それもこれも、ストーンの存在あってこその話だった。
ストーンが扮したのは、キャサリン・トラメルという億万長者の小説家だ。すらりとした体型の、30歳のブロンド。UCバークレー卒業で、推定資産額は1億1000万ドル。家族はなく、サンフランシスコ市内と近郊の海辺に瀟洒な居宅を構え、バイセクシャルを公言している。
そんな彼女の男友達がベッドで惨殺されるシーンから映画は始まる。凶器はアイスピック。めった刺しにされた男は、キャサリンと肉体関係があった。
キャサリンは、重要参考人として警察署で尋問を受ける。このとき騒がれたのが、取調室の椅子に腰かけた彼女がこれ見よがしに脚を組み替える動きだった。その前の場面で、彼女は下着を穿かずに白いミニドレスを身につけている。で、脚の奥が見えたとか見えないとか、中学生並みの騒ぎが一部で起きたのだった。
私は別のところで笑った。マイケル・ダグラスの演じる刑事ニックに「被害者とはどれくらい付き合っていたのか」と訊かれて、彼女は「付き合ってたんじゃない。してたのよ(I wasn't dating him. I was fucking him.)」と言い放つのだ。その口ぶりが思い切り伝法で、感傷などは微塵も入り込まない。
ニックは一本取られた形で、返す言葉もない。後日キャサリンと寝た彼は、まるで負け惜しみのように、「あれは世紀のセックスだった(She was the fuck of a century.)」とつぶやく始末だ。こうなると観客は、口を開けて笑うしかない。ストーンは、ポール・ヴァーホーヴェン監督特有の図太い笑いを背負っていた。
要するに、シャロン・ストーンの存在とは『氷の微笑』のおかしさの支柱だった。彼女の名をビリング(出演者紹介)の冒頭に置かなかったのは、製作者側の失態だろう。キャサリンの役は歌手マドンナをモデルにしたといわれたが、当時34歳のストーンは、度胸と奸智と蓮っ葉な体質を兼備していた。加えて、ほどよい俗っぽさと妖艶の配合。90年代のファムファタル(命取りになる女)になりうる条件がそろっている。
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