月刊「文藝春秋」の名物政治コラム「赤坂太郎」。経済で批判を封じる安倍。しかし、議論なき党内は静かに弱体化している。
「俺は安倍さんの後をヤル気はないね。もう年だ。あんたがやったらどうだい?」「いやいや、とても……」「私はとことん、尽くしていきますよ」
副総理兼財務相・麻生太郎と経済財政担当相・甘利明、さらに官房長官・菅義偉を加えた3人が、最近かわした会話の一端だ。
今秋の自民党総裁選での再選が確実視される首相・安倍晋三に、党内の死角はない。民主党が仕掛けた「政治とカネ」スキャンダルの攻勢も不発に終わった。再選されて参院選に勝ち、悲願の憲法改正へと突き進むため、安倍は高い支持率を支える「経済」に、まずは全力をあげた。
3月17日、春闘の一斉回答を翌日に控えた閣議前。安倍は甘利にこうつぶやいた。
「賃金が上がれば、野党が国会で私を攻める決め手はなくなる」
「アベノミクス」が恩恵をもたらしたのは富裕層、都市部、株を持っている人たちだけ――そんな不満が、じわじわと広がる。その芽を摘むため、安倍と甘利は賃金引き上げ=ベースアップに照準を合わせた。
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source : 文藝春秋 2015年5月号