1960年代から70年代初頭の日本の高度経済成長を支えた総合商社員の生態を描いた作品だ。総合商社内の人間関係、インドネシアや中南米での新規事業開発のエピソード、日本語がよく話せず、日本文化に馴染めない帰国子女問題などが盛り込まれている。この作品は、75年に『読売新聞』朝刊に連載され、翌76年に新潮社から単行本として刊行された。当時の読者にとっては、近過去の出来事としてリアリティーがあったと思う。ただし、それから約40年経った現在の日本人にとっては、むしろ歴史小説としての意味を持つ作品と思う。
「毎日が日曜日」という言葉には、2つの意味がある。第一は、閑職に追いやられるということだ。本書の主人公である沖がそうだ。この小説は、沖が扶桑商事の京都支店長に赴任するところから始まる。東京駅のホームに家族と職場の同僚が見送りに来る。同期で出世レースの一歩先を進んでいる十文字が一発かませてくる。
〈「沖君、京都へ行けば、毎日が日曜日だな」
声には、冷ややかなひびきがあった。社内では毒舌家で通っている十文字である。それにしてもと、気色ばむ沖に、十文字は、
「支店長として勇躍赴任しようとするきみに、まるで水をかけるようなこといって、失敬」
詫びた形だが、そこでまた、にやりと笑って、くり返した。
「けど、ほんとに、そうなんだ。毎日が日曜日のようなもんだ」(中略)
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source : 文藝春秋 2016年9月号